2007年8月5日

「マスコミと市民は連動している」
ジャーナリスト・伊藤千尋さんが札幌で講演

「自由に物言う」空気の重要性力説

 朝日新聞記者で国際ジャーナリストの伊藤千尋さんによる講演会「世界を駆ける特派員、映画を語る〜何のためのマスコミか」が8月5日、札幌市東区の「りんゆうホール」で開かれた。伊藤さんは、東欧革命や「9・11」後の米国を取材した経験を踏まえ、「自由に物を言えることが必要」と語り、マスコミと市民社会との連帯の重要性を訴えた。

 札幌映画サークルが主催。JCJ北海道支部などが後援した。

 伊藤さんは、1970年代前半、チリでの民主化運動で弾圧されながらも、「私たちには民主主義を掲げた憲法がある」と憲法を盾に反政府の論調を貫いて発行を続けた雑誌のエピソードを紹介。1989年のチェコ革命では、「プラハの春」で政府批判を行って以降、歌うことを禁じられていた歌手が30万人を集めた集会で20年ぶりに歌を歌った姿を目の当たりにして「東欧の革命は『自由に物を言いたい』という気持ちから始まったと実感した」と語った。

 また、米国赴任直後に襲った「9・11」同時テロ以降、街じゅうが星条旗に覆われた米国の姿を「一気に愛国社会になった」と振り返った。そして、その空気の中で成立したブッシュ大統領に戦争権限を一任するという法案に連邦議会で唯一反対した民主党の女性議員、バーバラ・リーさんへの取材のエピソードを紹介。「あなたの勇気は何ですか」と尋ねた伊藤さんに対して、リーさんは「ただ自分の責任を果たすにはどうしたらいいかだけを考え、合衆国憲法を読み返しました」と答えたという。このリーさんの勇気≠ノついて伊藤さんは「憲法というルールに基づいた信念をリーさんが訴えた結果、(ブッシュの戦争の誤りに気づき)米国の空気は確実に変わってきた」と語った。

 さらに、銃社会・米国の現状を皮肉を込めて描いた「ボウリング・フォー・コロンバイン」、同時テロ後の愛国社会・米国を真正面から取り上げ、一度は配給拒否を受けながらも市民の支持でヒット作となった「華氏911」、貧しい者は満足な医療さえ受けられない米国の現実を描いた新作「シッコ」という、マイケル・ムーア監督の映画三部作を取り上げ、「今の日本は米国型の新自由主義経済に近づこうとしている。これは米国のみのスタンダードで、世界には逆行している」と痛烈に批判した。

 講演に続く質疑応答では、「物言わぬ日本の空気」を疑問視する質問が出され、伊藤さんは「日本人は不満があればブツブツ言うが、米国人は不満を言う前に状況を変えようとする」と語った米国で働く若い日本人NGO職員の話を紹介。不満があっても周りを変えようとしない空気の「原因の一つにマスコミがある」と指摘した。しかし、ベトナム戦争当時の日本国内の報道が反戦運動につながった歴史を踏まえ、「マスコミと市民は連動している。問題は、市民がマスコミを自分のものを思っているかどうかだ。マスコミの報道が悪ければ悪い、良ければ良いと言ってほしい」と訴えた。一方でマスコミ側は、物言わぬ空気に安住してしまう傾向があるとして、「記者の側も社内外からの圧力があれば闘えばいい。一番悪いのは自粛だ。自粛すれば堕落が始まる」として、マスコミ側にも猛省を促した。

(事務局長 安藤 健)

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